てのひらの温度
ワタシハイラナイ。ワタシハジャマ。
小さな声はまだ響いて止まない。
「電話してるのだって建て前みたいなもんだ。……うぜえ、もうどっか遠くに行きてえ」
「…もう随分遠くに来てるんじゃないの」
「もっと遠く。いっそ地球の裏側まで」
浴衣は紺も着ているし、浴場かロビー辺りで貸してくれるのだろう。あとは下着と、そうだ、さっき部屋に来るときにコインランドリーがあったから、昨日の分も洗濯しよう。それから化粧水に乳液に。
全てをトートバッグに詰めて部屋を出る。
「ウタ、聴いてくれてありがとう」
襖を閉める直前に、紺の声が聴こえた。
特別好きではないけれど、せっかく温泉に来たならじっくり入ろう。そう思い、足を進めた。