てのひらの温度
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静かな朝だった。しんと冷えたそれは、冷凍庫から出した鶏肉が程よく解凍した温度と似ていた。
隣に寝ていたはずのあの人はいなくて、時計を確認するとまだ四時で、物音がしないことからするとコンビニでも行ったらしい。
裸のままベットを這い出て、あの人がお気に入りだと言っていたこっくりとした青色のカーテンを開ける。白い薄靄のその奥にさらさらと煌めく光はこころもとなく綺麗だ。
そっと窓を開けるとさらにひんやりとした、冷凍庫から出したての鶏肉の温度をした空気が流れ込んできて、部屋の温度をじわじわと下げてゆく。
コツ、コツ、と足跡らしき音が聞こえた。もしかしてあの人かも。と思いつつ、狭いベランダの向こうへ首を伸ばす。あ、当たり。スウェットに上着を羽織っただけのあの人が、コンビニの袋を提げてタバコを吸いながら歩いてくる。
と。くわえたタバコを掴む、ふっと道路脇に投げた。そこにはシロツメクサがひしめいている。のに。自然を壊したのは人間なのだから人間が自然を守るのは当然だというかそもそも守るという価値観がおかしいのだ人間がいなかったら自然は守られる必要のない姿でいられたはずなのだからと言っていた。のに。
ああ、そうか。この人の自然は、守らなければいけない自然は、この人の外側にあるんだ。自分には関係ないと思っているんだ。だから攻撃することを、自分勝手にすることを、いとわない。
私もあの人の外側にいるんだ。だから支配しようとするんだ。
タバコの火でじりじりと焼かれる三つ葉が見えたような気がして、それはまるで私みたいで。素肌剥き出しの体はすっかり冷えきってしまっていた。