てのひらの温度
「そんで、いくつ?」
「二十歳。今年二十一」
「ふーん。なんだ、あんまり変わんないね。俺十七でもうすぐ十八」
「若いな十代」
電車はまだ動く気配がない。窓の向こうに広がる景色は両側で大差なく、ただ畑地や田地が多くを占めている。案山子の代わりなのか、田んぼの真ん中に、錆びて文字のない標識が突っ立ててあるのが見えた。
少年は何やらカタカタと携帯を打っている。男の子といえど、その手の動きは速い。
そして携帯をパチンと閉じると、再び話しかけてきた。
「旅行に行くの?」
彼は私の黒い大きな鞄を指差している。
「旅行というか旅に」
「ひとりで?」
「ひとりで」
「えぇー」
彼は苦い顔をしている。ブラックコーヒーを口に突っ込まれたような、そんな顔だ。
思ったことがすぐ表情や言葉に出るのは、よく言えば素直、悪く言えば気が利かない、といったところだろう。けれども、この少年はそれ故健全な高校生に思えた。