てのひらの温度

「それって虚しくない?」

「あのね、旅ってのは一人でするもんなの。虚しい訳ないでしょ」

「ふーん」


旅に出る。そう決めたのは、ほんの十二時間くらい前のことだ。

その辺の服を詰め、預金通帳と印鑑を持ち、パスポートをねじ込んで家を出た。誰にも言っていない、誰も知らない。会社には辞表を郵送しておいた。

私はこれからどこへ行くのだろう。


「わかった、あれだ。放浪の旅ってやつ?」

「まあそんなとこだよ」

「いいじゃん、カッコイイ」


別に恰好よくなりたくて旅する訳ではないのだけれど。私のこの気持ちは衝動にも似た強いもので、激しい濁流のように押し寄せてくるんだ。

今、行くしかないと思ったんだ。

爽やかに、でも強く、この胸を駆け巡るどんな欲求よりも強い衝動に、私は流されている。不思議と後悔や不安はなくて、夢と将来がイコールだと信じている子供のように、希望と期待しかない。
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