消える前に……


綾の言葉の後に、

波の音が小さく聞こえ、

他の音は何もなかった。


俺と綾の間には、

静かな波の音だけが響き、

さびしげな空気が流れた。


「そろそろ戻ろうか?」


俺はそう言って

綾に手を差し出した。


「うん!」


綾はそう言って、

俺の手を握ってきた。


綾の手は俺の手を

いつもよりずっと、

ずっと強く握っていた。


俺はその小さな綾の手を、

握り返した。


こうすることが、

正しいことだと思ったから。


一番安心できる、

そう思ったから。


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