消える前に……
綾が眠ったころに俺は
布団から頭を出した。
「綾……ごめんな。」
何も思い出せないままだったけれど、
俺は綾という女性を
愛おしく思うようになった。
俺は、
座ったまま寝る綾の頭を
優しくなでた。
さらさらの髪から、
懐かしい香りがした。
この香り…
俺は完全に忘れたわけではなかった。
そう思うと、
心から嬉しいと思えた。
俺は綾を優しく抱き上げ、
病室のソファーに寝させた。
俺はその横に座り、
綾の手を握った。
このぬくもり……
俺はその懐かしいぬくもりを握りしめて、
目を閉じた。