消える前に……


俺は抱きしめ返せない自分が

悔しくて、

後ろで握りしめる手の力を

さらに強くした。


いつもなら迷わず

抱きしめ返す俺なのに、

抱きしめ返さなかったから

綾の不安は募っていった。


そして、

不安が募るとともに

悪い予感が確信に変わっていった。


不安と確信した悪い予感は

恐怖と震えとなって表れた。


ごめん……

ごめん……。


俺はもう、

震える綾を

抱きしめてやれない……。


「何で……?」


綾はそう言って、

そこから続きは

言おうとしなかった。


「じゃあね……。」



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