消える前に……
駅に着くと、
二人でホームに上がっていき、
電車を待った。
その時も綾は
一度も顔を上げることなく、
ずっと俯いていた。
俺も声をかけることもなく、
ずっと前を向いていた。
俺の目には
何かが映っているんだろうけど、
その景色は
俺の脳には
全くやってこなかった。
俺の脳に届いた光景は、
俯いた綾の姿だけだった。
向こうの方から
電車がやってきて、
ベンチに座っていた
数人の人たちが
立ち上がった。
俺の家の方に向かう
電車だった。