消える前に……
俺は動かずに、
その場に立ったまま。
プシューッ。
電車のドアの開く音が
聞こえるとともに、
ベンチに座っていた人の
足音が聞こえた。
俺は綾のほうを向いた。
その時、
ちょうど綾も
俺のほうを向いて、
目があってしまった。
綾の目は赤くなって、
潤んだ瞳には
今も滴が
こぼれそうなくらい
溜まっていた。
「乗らないの?」
綾が俺に聞いてくる。
「この電車には乗らない。」
「でもこれ、
修君の家の方に向かう電車だよ?」