【完】軒下
「……と、り?」


 黒い羽根を伸ばした、体長20センチくらいの鳥。嘴と目の周りは黄色、お腹の辺りには斑点。


「クロツグミだよ」
「…え」


 その言葉に思わず彼の顔を見れば、綺麗に視線が重なる。どうやら私の思ったことに、気づいたらしい。動揺を露わに、それでも彼はなお否定する。


「ちが、そういう意味じゃ…」


 鶫、あの時まで彼は、私をそう呼んでいて。消えてしまったその声は、私の中でどうしようもなく大きくて。

 ねぇ私、その声でもう一度、その名を呼んで欲しかった。


「珍しいな、普通山地に生息してるもんなのに」


 動揺を隠すようにそんな知識を披露したところで、私の口をつくその言葉は、止められやしない。


 もう一度呼ばせて、大切な大切な、あなたの呼び名を。


「たっちゃん、」


 また、同じように雨の日から。
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