アメット

 だからといって、階級を盾に好き勝手に発言する者を排除――というわけにはいかないのが、この階級の厄介な部分。

 階級の上位の者は特権階級に等しく、彼等の言葉は絶対的だ。

 だから「貴方の発言は――」と間違っても口に出すことはできず、誤って発言すればそれ相応の罰が待っている。

 それを知っているからこそ、彼等の的外れの発言を黙って聞くしかない。

 彼等が真っ当な発言を阻害しなければ、浄化プロジェクトはいい方向に進んでいるのかもしれない。

 という意見がないわけでもないが、階級が低い者はその意見を心の中に仕舞う。

 やり切れない現状にシオンはカフェラテを一気に胃袋に流し込むと、紙コップをゴミ箱に向かって乱暴に投げ捨てる。

 するとタイミングよく現場を目撃していた者がおり、目撃者の名前はアイザック。

 彼はシオンの友人兼同僚であり、シャワー時に電話の相手。

 彼はシオンと同年代で尚且つ階級が同じということで仲が良く、今回アイザックはシオンの珍しい行動に苦笑していた。

「荒れているな」

「別に」

「報告書は?」

「半分終わった」

「なら、休憩していていいのか?」

「休憩しないと、いい報告書が書けない。それに、大半の連中は会議室に篭っているから平気だ」

 その大胆発言にアイザックは何度か瞬きを繰り返すが、納得したのか普段の表情に戻る。

 そんな友人の表情にシオンは微笑を浮かべると、アイザックこそ休憩していていいのか尋ねる。

「会議の参加者を待っている」

「何かトラブルか?」

「いや、その人物から意見を聞かないといけない。以前、聞かずに進めていたら大目玉を食らった」

「当たり前じゃないのか?」

「普通は「当たり前」なことだけど、その相手というのが……何と言うか、愚痴になってしまう」

 言い難い内容なのかアイザックは言葉を濁すも、シオンは彼が言いたい意味を理解する。

 彼が意見を聞かないといけない人物というのは、自分より階級が上の者。

 しかしその者は特権階級をフルに利用している人物で、シオンやアイザックのような階級が下の者からの評判は悪い。
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