アメット

 シオンの頼みに、相手はコクコクと頷く。

 彼女の反応にシオンは安心したかのような表情を作ると、ちょうどいいタイミングで侍女と出会ったと考える。

 当初シオンは彼女に温かいコーヒーを頼もうとしたが、寝起きの今温かいコーヒーより冷たいコーヒーの方が喉を通り易い。

 侍女にアイスコーヒーを頼むと、シオンはパーティーの状況について尋ねる。

 侍女の話では開催の時から相当の時刻が経過しているので、現在パーティーの参加者は殆んど帰ってしまったという。

 しかし数名の人間が、グレイと何か真剣な表情で話し込んでいると彼に伝える。

「誰?」

「確か、統治者の方々と……」

「なるほど」

「それで、その……」

「ああ、アイスコーヒーを宜しく。喉が乾いているので氷は少な目で、コーヒーの量を多くして欲しい」

「かしこまりました」

 侍女は恭しく頭を垂れると、シオンの前からいそいそと立ち去る。

 侍女の後姿にシオンは肩を竦めると、父親が話している相手について考えていく。

 統治者の一族といえば、アークの一族〈アンバード家〉ともうひとつの〈クルツ家〉のどちらか、それとも両方か――

 今、何を話しているのか。

 統治者全てが顔を付き合わせて話すとなると、いい内容を思いつかない。

 他の二つの一族はドームで暮らしている者達を見下しているので、グレイと根本的に話が合わない。

 というか犬猿の仲に等しく、やることなすこと文句をつけることが目立つ。

 同等の権力を持つ者に圧力を掛けるというのは正しい言い方ではないが、グレイに忠告を行なっているのだろう。

 現在の状況を長く維持し、これから先も三つの一族が全ての面で統治していく。

 それが平和と安定に繋がり、これからの発展に繋がるということだろうか。

 何か、言ってやりたい。

 そう思うも、勝手に口出ししていい問題ではない。

 また父親には父親なりの考え方があるので、横からあれこれ言って父親の立場を危うくするわけにはいかなかった。

 それに父親との約束――プロジェクトの成功が第一の優先事項。

 そして、全ての人類がドームの外へ出ないといけない。

 幸い、人類同士で戦争は行なわれていない。

 これも明確な階級制度によって縛り付けているからだろうが、この状況が本当にいいわけではない。

 アイザックが、これを知ったら何と言うのか――ふと、脳裏に過ぎるのが友の顔。

 そして、壮絶な毒の吐合いを行ないストレスを発散したかった。


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