アメット

「母さん、喜んでいるよ」

「何?」

「そうやって、今も想い続けている」

「悪いか?」

「わ、悪くはないよ」

「お前も早く、そういう相手を見つければいい。と言っても、現在の状況ではなかなか難しいか」

 一方的に熱を上げている恋愛は確実に不幸を招き、またシオンにアプローチしてくる者は彼が持つ権力と財力を目当てでやって来ているので、シオンの内面を見ているわけではない。

 その結果、一緒になっても不幸になるのは確実で、仮面夫婦で日々を過ごすのは辛い。

 立場上、A階級の人間の中から特定の相手を捜すのが望ましいが、この際B階級の人間でも構わないという。

 父親の衝撃的な発言にシオンは「本当にいいのか?」と、聞き返してしまう。

 それについてグレイは、好きでもない階級の人間と結婚したらこれはこれで面倒と話す。

 また、グレイが恐れているのは、息子と結婚した相手側の対応。

 娘が統治者一族に加わったことにより、必然的に相手側の権力が増す。

 これにより好き勝手に振る舞い、下の階級の者達を更に見下し非情に振る舞うのではないか。

 また、統治に口出しされたら煩くて堪らない。

「それなら、B階級もそうじゃないか?」

「A階級より、いいだろう」

「そういうもの?」

「A階級の者は全員じゃないが、統治者一族に加わろうと虎視眈々と狙っている。同じA階級の人間なら、アムルの方が何倍も……あいつに娘がいれば、お前と結婚させていただろう」

「父さん!」

「冗談ではない、本当だ。ただ、アムルは妻も子もいない。これについては、本当に残念でならない」

 グレイの話には嘘は感じられず、本当にアムルに年頃の娘がいたとしたら結婚させていただろう。

 父親の発言にシオンは苦笑してしまうが、確かに真面目の代名詞であるアムルの娘となら結婚してもいいかもしれないと思う。

 父親に似て権力と財力に固執しなければ、共にいて楽だ。

 シオンは女を外見で選ぶ人間ではなく、内面を重視する。これを女に言っては反感を食らうだろうが、外見は年齢と共に変化していくので、場合によって何十年後は別人に変化してしまう。

 なら内面が素晴らしい人物を選び、共に白髪になるまで仲睦まじく暮らしたい。


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