アメット

 だから、できることから少しずつ――

 それが、グレイができる最善の行為。

「……有難う」

「何故、お前が礼を言う」

「間接的でも、最下層と関わって……それに、住民の話を聞いて……俺は、統治者の者だから……」

「なるほど」

「父さんが、統治者で良かった」

「褒めても何も出ない」

 しかし息子にそのように言われたことが嬉しかったのだろう、グレイの口許が緩んでいる。

 ただ、状況が状況なのでいつまでも喜んではいられない。

 改善できる部分を改善していき、いい方向に進めていかないといけない。

 それが統治者としての役目と、グレイは再認識する。


◇◆◇◆◇◆


 翌日、アムルに送られシオンはドームに戻ることにした。
 統治者として生活していた時は変装をしていなかったが、B階級の人間に戻った今、伊達眼鏡を掛けいつものように髪を乱す。

 寝て疲れが癒されたと思ったが、予想以上に身体が疲弊していたらしく身体が重い。

 顔色が優れないシオンにアムルは何処か体調が悪いのかと尋ね、病院に行った方がいいと促す。

 彼の言葉にシオンは頭を振ると「ただの疲労」と言い、それなりに仕事を頑張ると告げる。

 と言っても溜まっている仕事の量が量なので、それなりに頑張れるかどうか怪しい。

「今日は、有難う」

「本当に、体調だけは……」

「わかっている。危ないとわかったら時間を見付け病院に行って検査を受け、体調を整える」

「そうして頂けると――」

「父さんを頼む」

「畏まりました」

「じゃあ、また」

 それを別れの挨拶とし、シオンはアムルと別れる。

 宇宙へ向かった時と同じく、全体的にドームは薄暗く、まだ活動時間ではないので出歩いている者もいない。

 特に立ち寄る場所もないので真っ直ぐマンションへ帰宅すると、シャワーを浴び着替え仕事の支度を行った。


< 106 / 298 >

この作品をシェア

pagetop