アメット
だから、できることから少しずつ――
それが、グレイができる最善の行為。
「……有難う」
「何故、お前が礼を言う」
「間接的でも、最下層と関わって……それに、住民の話を聞いて……俺は、統治者の者だから……」
「なるほど」
「父さんが、統治者で良かった」
「褒めても何も出ない」
しかし息子にそのように言われたことが嬉しかったのだろう、グレイの口許が緩んでいる。
ただ、状況が状況なのでいつまでも喜んではいられない。
改善できる部分を改善していき、いい方向に進めていかないといけない。
それが統治者としての役目と、グレイは再認識する。
◇◆◇◆◇◆
翌日、アムルに送られシオンはドームに戻ることにした。
統治者として生活していた時は変装をしていなかったが、B階級の人間に戻った今、伊達眼鏡を掛けいつものように髪を乱す。
寝て疲れが癒されたと思ったが、予想以上に身体が疲弊していたらしく身体が重い。
顔色が優れないシオンにアムルは何処か体調が悪いのかと尋ね、病院に行った方がいいと促す。
彼の言葉にシオンは頭を振ると「ただの疲労」と言い、それなりに仕事を頑張ると告げる。
と言っても溜まっている仕事の量が量なので、それなりに頑張れるかどうか怪しい。
「今日は、有難う」
「本当に、体調だけは……」
「わかっている。危ないとわかったら時間を見付け病院に行って検査を受け、体調を整える」
「そうして頂けると――」
「父さんを頼む」
「畏まりました」
「じゃあ、また」
それを別れの挨拶とし、シオンはアムルと別れる。
宇宙へ向かった時と同じく、全体的にドームは薄暗く、まだ活動時間ではないので出歩いている者もいない。
特に立ち寄る場所もないので真っ直ぐマンションへ帰宅すると、シャワーを浴び着替え仕事の支度を行った。