アメット

『終わった』

「……悪い」

『別にいいよ。で、今自宅か?』

「研究所にいる」

『早いね』

「それ、他の奴にも言われた」

『そっちに行っていいか?』

「仕事が溜まっている」

『そうか。なら、昼に――』

「了解」

 それだけを交わすと、アイザックとの電話を切る。

 これで連絡が取れたので、諸々の話は昼の時に行えばいい。

 携帯電話をポケットに仕舞いこむとパソコンの電源を入れ、仕事を開始する。

 シオンは慣れた手付きでキーボードを打ち仕事を行うが、途中で行き詰り手を止めてしまう。

 暫く文字と画像が表示される画面を真剣な表情で凝視していると、いい方法が思い付いたのか、再びキーボードを打ち出す。

 それを何度か繰り返していると、溜まっていた仕事のひとつが終了した。

 そして凝り固まった身体を解すように運動した後、次の仕事に取り掛かる。

「シオン」

「うん?」

「飲むか?」

「ああ、有難う」

「病院、どうだった?」

「皆、同じように聞くな」

「まあ、科学者という職業柄、身体は一番気にするからな。といって、真面目に行く奴は珍しい」

「定期健診は大事だ」

「だな。倒れたら、後が面倒だ」

 シオンも納得する部分があるのだろう、苦笑しながらも頷く。

 しかしそのような話をするのに、態々飲み物を持ってきたわけではない。

 シオンはどのような用事でやって来たのか尋ねると、突破口となるいい切っ掛けが見付からないので、何かアドバイスが欲しいと頼まれる。

 だが、それについてシオンは得意というわけではなく、それよりもっと適切なアドバイスを送れる人物は他にもいる。

 その者に聞いた方が早いのではないかと言い返すと、勿論その者からもアドバイスを貰っているという。

 ただ、他の者の意見も聞きたいと、声を掛けたと話す。


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