アメット
知識を持つ者同士助け合い、ひとつの目標に突き進まないといけない。
もし階級など関係なく手を取り合うことができれば、どれほどいいものか。
現にシオンの父グレイもそれを願っているが、A階級の人間が歩み寄りを拒み、下の者が働くのを当たり前と思っている。
階級に関係なく優秀な人材が、それぞれの役職に就いていれば、ドーム内はどうなっていたか。
今以上に素晴らしい世界になっており、それぞれが仲良く暮らしているかもしれない。
そう、シオンは考える。
プロジェクトの進行に、階級に縛られなくてもいいし拘らなくてもいい。
下の階級の者にも目を向け、優秀な人物を使っていけばいい。
現にクローリアは知識の面ではわからないが、頭の回転は速い。
それ相応の勉学を行えば、優秀な科学者として化けるかもしれない。
そう思うと勿体なく、階級で縛られていることにより大事な物を失っている可能性が高い。
クローリアのことを思い出すと、シオンの口許が緩んでいく。
彼女なら、何事もなく元気にやっているだろう。
無事にやっているのならそれでいいが、時折気に掛かってしまう。
(そういえば、家政婦は――)
アムルの裏工作によって家政婦を雇える立場になるが、誰を家政婦に迎えればいいか。
いや、この場合クローリアを選択するべきだろう。
それに彼女も金を稼ぐことを望んでおり、また最下層以外の世界を見たがっている。
やはり雇うのなら、知っている人物が一番いい。
しかし今までに、最下層の住人を家政婦に迎えたという話を聞いたことはないので、クローリアを家政婦とするのは難しいだろう。
だからといって、見ず知らずの人物に全てを任せるのは気分的にいいものではなく、それに私物に触れられたくないというのがシオンの本音。
(このあたりも、アムルに聞いておけばよかったが……ああ、失敗した。彼ならいい案を――)
だからといって、再び宇宙に上がるわけにはいかない。
これに関してもアムルの裏工作が必要で、下手に連絡を取れば自分が統治者一族の者とわかってしまう。
なんだかんだで今の生活が気に入っており、また科学者として仕事を続けていたい。
だから、自分で何とかしないといけない。
(しかし、どうすれば――)
これに関しては、プロジェクトの突破口を見付けると同じくらい難しい。
飲みかけの紅茶を一気に飲み干すと、どのようにクローリアを家政婦にしようか考えていく。
階級制度がもっと緩やかなものであったら、このように悩まなくてもよかっただろうが、これが現実。