アメット

 なかなかいい答えが見付からないことに、シオンはこれについて考えるのを止めてしまう。

 クローリアを家政婦に迎える方法を考えるのもいいが、まずは目の前の仕事を片付けないといけない。

 仕事をこなさずに溜めていけば、上司から何を言われるかわかったものではない。

 その時は、その時。

 珍しく楽観的に片付けると、仕事に取り組むことにする。

 しかし、一度引っ掛かってしまったことを簡単に頭の隅へ追いやることはできず、時折浮かんでは消えていく「家政婦」という文字。

 集中力のない自分に嘆くが、だからといってこのようなことで休憩もできない。

 シオンは自分自身に気合を入れると、目の前の仕事に集中することにした。

 無になって仕事を行えば、周囲の雑音や無用な考えをしないで済む。

 現在の姿を周囲の者が目撃したら「鬼気迫る」と表現できなくもないが、シオンにとって周囲からどのように見られようが関係ない。

 ただキーボードを打ち続け、仕事を進めていく。

 だが、画面に集中していたことにより目が渇きを覚え、痛くなってしまう。

 流石にこのような状況で仕事を続けるわけにはいかず、休憩を入れることにした。

 それにアイザックとの約束の時間も迫っていたので、丁度いい。

 いくら友人同士とはいえ、事前に連絡をしないわけにはいかない。

 携帯電話を手に取るとアイザックに電話をしようとするが、早朝と違い今何か込み入った仕事をしていたら迷惑になってしまう。

 それならとシオンは短文のメールを作成し、早い返信を願いつつ送信する。

 するとシオンの願いが通じたのか、アイザックからすぐに返信があった。

 彼からの返信は「いつもの場所で」という短いものだったが、シオンはこれだけでどの場所を示すかわかる。

 心の中で「了解」と呟くと椅子から腰を上げ、いつもの場所でアイザックを待つことにした。




「やあ!」

「一日ぶり」

「変な言い方」

「昨日、有休で休んでいただろう?」

「肉体的に、休んではいないよ」

 シオンの言い方が面白かったのか、アイザックは吹き出してしまう。

 確かに身体をあれこれと検査されたのなら、休むに休むことはできない。

 また身体の異常を見付ける検査は、思った以上に気力と体力を使い、別の意味で具合が悪くなってしまうとアイザックは同情する。


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