アメット

 特にA階級の人間は、出世欲が高い。

 統治者に取り入って、自分にとって最高の地位に就きたい――と、欲望に忠実に生きている。

 その生き方をシオンは否定することはしないが、いささか度が過ぎる。

 結果的に下の階級の者が迷惑するのだから、程々が一番いいと思う。

「さて、話はこれで――」

「そうだね。こうやって上の者も出勤していることだし、いつまでも立ち話はしていられない」

「何かあったら、メールで」

「了解」

 アイザックの言葉にシオンは頷くと、互いに軽く手を上げ挨拶を交わす。

 案の定、アイザックの読みは正しく、二人が会話を終えそれぞれの仕事場に向かうと、直属の上司が顔を見せる。

 早い出勤を苦手としているのだろうが、統治者の意見もあるので文句は言えない。

 その分、部下達でストレス発散すればいいという魂胆なのか、いつになく口調は荒々しく態度が悪い。

 上司の変化に大半の者達が気分を害するが、流石に言葉に表すことができないので心の中で溜息を付く。

 そして何処か殺伐とした空気の中で、仕事が進められていった。


◇◆◇◆◇◆


「聞いたか?」

「何を?」

「家政婦」

「誰か、雇うのか?」

 一瞬「家政婦」と耳にし、シオンは動揺を覚える。

 いくら裏工作が上手いアムルとはいえ、こんなに早く手続きが可能になるわけがない――と考えていると、家政婦を雇うのは別の人物と判明する。

 シオンは殆ど面識がないが、A階級の人間だということは噂で知っていた。

「階級が階級だから、いいんじゃないか。というか、それくらいのことで大騒ぎしなくて
も……」

「そういうことじゃない」

「じゃあ、何?」

 もったいぶらずに言ったらどうだ――という態度を示しつつ、相手に早く言うように促す。

 シオンの最速に一度咳払いすると、家政婦として雇い入れる者の年齢に皆が驚いているという。

 正確な年齢は人伝に聞いたので曖昧となっているが、十代前半というのは間違いないらしい。


< 118 / 298 >

この作品をシェア

pagetop