アメット
「喜び過ぎ」
「いや、だって……」
「家政婦は、難しいよ」
「勿論、それはわかってい
る。ただ、若い子があれこれと身の回りの面倒を見てくれて……」
「……おい」
何かよからぬことを考えていたのか、シオンの何気ない言葉に過剰に反応を示す。
動揺を隠し切れない姿にシオンは噴き出すと、そのような考えは口に出さずに胸の中に仕舞っておいた方がいいと諭す。
それに下手に口に出したら、異性からどのような目で見られるかわからない。
「……だな」
「気を付けた方がいい。こういうことに関しては、物凄く凄く煩く言う連中がいる……らしい」
「らしいって?」
「実際に、会ったことはない。だけど、そういう連中がいるという噂は、聞いたことがある」
いまいち信憑性が薄い話だが、シオンがこのようなことに関して冗談や嘘を言う人物ではないと知っているので、ここは素直に聞き入れることにする。
そしてこのような考えを持っていたことは周囲に黙っていて欲しいと、前の前で両手を合わしながら口止めするのだった。
「いいよ」
「助かる」
「で、何か違う情報が……」
「わかっている」
シオンが言う「情報」というのは仕事に関係しているものではなく、研究所での噂話や話題となっているネタのことを示す。
日々苦労が絶えない仕事をしている手前、このような話で盛り上がり、楽しみたいというのが本音。
相手もそれを理解しているのだろう、口許が緩みだす。
しかしその表情はすぐに崩れ、表情が失われていく。
何か都合が悪いモノを見てしまったのだろう、口をつむぐと視線で合図を送る。
視線が向けられた先にいたのは、自分達の上司。
早い登場にシオンは舌打ちすると、小声で「行った方がいい」と言い、軽く手を上げた。
それを合図とし、相手は気付かれないように身を屈めながら小走りで自分のディスクに急ぐ。
幸い、見付からずにディスクに戻ることができ、何もなかったかのように仕事を行う。
シオンも下手に目を付けられないようにと、いつも以上に真面目に仕事を行うのだった。