アメット

 これもまた、父親の影響か――

 いつもの彼等であったら威張り散らしているのだが、このように真面目にされるとやり辛い。

 先程の人物といい上司のイデリアといい、それだけ父親の言葉が浸透しているのだろう。

 しかしイデリアの場合、何処か殺伐とした雰囲気を漂わせ、誰も視線を合わせようとはしない。

 口調がいつもと違い、周囲に緊張感が伝染していく。

 イデリアの登場に誰もがいい表情をせず、一部の者は早く立ち去って欲しいと願う。

 イデリアもアイザックと話している時にすれ違った人物と同等のことを考えているのだろう、シオンは表情を確認するように一瞥する。

 いち早く成果を出したいと考えているのか、部下達に葉っぱを掛けていく。

 だが、掛けられた方はいい迷惑だが、立場が立場なので何も言うことはできない。

 ただ「努力します」と言い、圧力に耐えていく。

 一通り部下達に声を掛けていくと、最後に立ち止まったのはシオンの前。

「頑張っているか」

「は、はい」

「そういえば……」

 何かを思い出したのか、イデリアは間延びした声音を発する。

 彼の態度に何か悪い出来事が発生するのではないかと、シオンは無意識に身構えてしまう。

 イデリアが発した内容というのは、外界と最下層への大気調査。

 その二つの単語に、シオンは過剰に反応を示した。

「な、何でしょう」

「回数が多い」

「それは、運がないだけで……」

 そのように言い返すが、外界へ行ったのは休暇が欲しいから自ら名乗り出た。

 また、最下層へ行ったのはじゃんけんで負けたので決定した。

 イデリアは策略があって行っているのではないかと勘違いするが、シオンの説明が余程愉快だったのだろう、肩を震わせ笑い出す。

「確かに、運がない」

「そうなんです」

「しかし、いい調査を行う」

「有難う……ございます」

「別に、礼は言わなくていい」

 まさかイデリアに褒められるとは思ってもみなかったのだろう、シオンは動揺を隠し切れない。

 普通であったら褒められて嬉しい感情が湧いてくるものだが、相手が相手なので褒められても嬉しさが込み上げてこない。

 それに部下のやる気を出さすための言葉と、悪い意味で受け取ってしまう。


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