アメット

 案の定、シオンの予想は的中してしまう。

 イデリアは明確に言葉に表すことはしていないが、言葉の端々に顔を覗かしているのは、彼自身の策略といっていい。

 イデリアはシオンに向かって「いい調査」と言い褒めているが、裏側にはまた調査へ行って欲しいと頼んでいる。

 シオンはその部分を遠回しで尋ねると、イデリアの表情が変化する。

 その変化にシオンは苦笑いすると、調査のことを頼みたいと申すのなら、面と向かって言って欲しいと言い返す。

 まさか気付かれるとは思ってもみなかったのだろう、再びイデリアの表情が変わった。

「外……ですか?」

「行くか」

 この場合、階級を前面に出されたら、シオンが断れるわけがない。

 個人的に外界へ調査に行くのは好きではないが、命令となれば行かないといけない。

 それならハッキリと明確に「行け」と言ってくれた方が何倍もよく、このように回りくどい言い方は好きな方ではない。

「そのように仰るのなら……」

「なら、頼む」

「……はい」

「データは、多い方がいい」

 と、当たり前のことを言うが、それらのデータの解析をしていくのは下の者。

 イデリア自身何かを行うわけではなく、やっていることといえば命令を出すことくらいだろう。

 しかしこれについてあれこれと文句を言うことはせず、心の中で本音を漏らすしかできなかった。

「ただ……」

「何だ」

「以前、嵐に遭いました」

「それは聞いている」

「危険が生じましたら、帰還します」

「それは構わない」

「それを聞き、安心しました」

「何が言いたい?」

「嵐が発生しても、続けて調査を行えと言われましたら……いえ、そのようなことはないでしょうが」

 だが、それがないわけでもないので、そのことを話す。

 本当に部下を大事に思っているのなら、部下の身の心配を行う。

 イデリアはそのような感情を持ち合わせていないのか、不満そうな表情を見せる。

 所詮、道具は道具として扱う――それがイデリアの本音といっていい。


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