アメット
「それ、利口な考え」
「だから、受け入れた」
「断ると、煩いな」
「正直、鬱陶しい」
その時の状況で気分が変化する上司と上手く付き合うには、これくらいのスキルを身に着けておかないといけない。
それに伴い今回は「外界への調査」を命令されたが、研究所で働き続けるにはこれくらい我慢しないといけない――が、心に引っ掛からないわけがない。
ふと、外界への調査で、いいことを思い付く。
いいデータを収集できれば、それを盾に有休を再び獲得すればいい。
そうすれば、アイザックの検査について行くことができる。
我ながらいいアイディアにシオンはほくそ笑むと、その笑みに声を掛けてきた人物が不可解な表情を見せる。
「どうした?」
「いや、ちょっと……な」
「何か、いいことを思い付いたのか」
「まあ、そういうことだ」
勿論、それについてどのような内容なのか聞きたそうな雰囲気であったが、相手も仕事があるので、これについて尋ねようとはしない。
ただ一言「頑張れ」と言葉を残すと、自分のディスクに戻ってしまう。
立ち去ったと同時にシオンは再び口許を緩めると、まずは目の前の仕事を片付けていくのだった。