アメット
「大丈夫でしょうか」
「何が?」
「その……最下層の者は上に……」
「それは心配ないよ。きちんとその点は報告してあるから、クローリアだけは上に上がれる」
それを聞きクローリアは安堵の表情を見せるが、だからといって不安感が完全に拭えたわけではない。
自分が家政婦として雇われ、夢にまで見た上の階層へ行くことができる。
素直に受け入れ喜びを表現すればいいのだが、今まで最下層で生きていたので躊躇いの方が強い。
「いいじゃないか」
「そうよ。こういう機会は、もう二度とないわ。それに、こうやって態々迎えに来てくれたのだから」
そのように話すのは、クローリアが働いている店の主人――セイゲルとエイネール。
クローリアが家政婦として働くことを賛成しているのだろう、彼等の言葉は優しい。
それに行かないことを選択すれば、後で後悔してしまう。
だから行った方がいいと、彼女を後押しする。
「……私でいいのでしょうか」
「勿論。とうか、クローリア以外はいない。個人的に、知らない者にあれこれとやって欲しくないから……」
「でしたら、宜しくお願いします」
「此方こそ」
クローリアの言葉に、セイゲルとエイネールが満足そうに頷く。
彼に任せれば大丈夫だという思いを持っているのだろう、それだけ最下層へ調査に来てくれたシオンへの信頼は厚い。
また、一番の理由はクローリア自身シオンを信頼しているところが、後押しする要因となった。
「行こう」
「その前に、両親に……」
「ああ、そうだね。きちんと説明しないといけないし、暮らす場所は上の階層になってしまうから離れてしまう」
「それに、私物を――」
「それは無理」
「どうしてですか?」
主な理由は「規約に書かれているから」となるが、簡単に言えば「汚いから勝手に持ち込むな」と言った方が正しい。
その理由として、何か怪しい物が付着していたら――という差別意識から来る。
流石に纏っている服を剥ぎ取るまではいかないが、私物の持ち込みは諦めて欲しいと話す。