アメット

 だからといって自分達が置かれている階級を嘆いても階級が変更できるわけではなく、外界へ赴いた時は自分の運を頼るしかできない。

 そして今回は、天はシオンに味方してくれた。

「神に祈りを――」

「俺は信心深い方じゃない」

「実は僕も」

「だけど、危機的状況に陥ると信心深くなるから面白い。現に、浄化プロジェクトの名前も神の名前だし」

「確か、再生の神……だったような」

「そう。再生を司る神で、名前はアメット。科学万能の世界で神の名前をプロジェクト名に付けるということは、神にも縋りたい気持ちの表れというものじゃないか。否定はしないけど」

 ドーム内はコンピューター制御によって快適に生活できるが、天井に映し出される青空は所詮偽者。

 いつか本物を自分の目で見たいというのが人間の願望で、それを叶えようとプロジェクトが立ち上がった。

 しかし現実は思った以上に問題が多く、それどころか長いドーム生活の中で生まれた階級によって、一部の人間が莫大権力を有する。

 結果、人類の夢を背負うべきプロジェクトは彼等の何の裏付けもない思い付きの計画によって妨害され、実力がある者を隅に追いやる。

「神はいると思うか?」

「唐突になんだ」

「いや、いるとしたらプロジェクトを成功に導いて欲しい。特に、邪魔する者を排除して……」

「時々、大胆な発言をするな」

「違うか?」

「内心、俺もそう思う。今回のプロジェクトは、高い知識を持つ者を集め進行しないといけない。階級なんて、関係ないんだ。そもそも階級なんて、何の根拠によって決められたかわかったものじゃない」

 日頃の蓄積したストレスを吐き出すかのように、今日のシオンは饒舌だった。

 一方その意見に賛同できるアイザックは、友人の愚痴に納得するかのように相槌を打つ。

 だが、彼等の討論という名の愚痴大会は、休憩所を利用する人物の登場によって途中で中断してしまう。

 彼等の目の前に現れたのは自分達と同じ階級の者だが、いかんせん内に抱いている意見が同じというわけではない。相手はどちらかといえば「長いものには巻かれよ」というタイプで、階級が上の者の悪口が相手の耳に入ったら告げ口されてしまう。

 だから二人は口をつむぎ、上手くやり過ごす。

< 13 / 298 >

この作品をシェア

pagetop