アメット

「生活に必要な物は、上の階で買えばいい」

「お金は……」

「いいよ。俺が払う」

「で、ですが……」

「これくらいは、支払えるよ。こう言うのもなんだけど、科学者って結構いい給料を貰っている」

 聞き方によっては自慢話に等しいが、クローリアを安心させるにはこれしかない。

 家政婦として雇ってくれるだけでも有難いというのに、それ以上にことまでしてくれる。

 シオンの心遣いに何かを言うべきなのだろうが、適切な言葉が思い付かないらしくモジモジとし出す。

 階級が上の者とは思えない親切の数々に、セイゲルはシオンのことを「変わった人物」と、見る。

 階級を前面に出し、あれこれと命令をしていい立場だが、それを行うことはしない。

 最下層の者と対等に話し合い、家政婦の件もクローリアに強制せず選択の余地を与えた。

「本当に、B階級か?」

「それは?」

「もっと、えばった方がいい」

「そうしていいのなら?」

「いや、いい」

 まさかそのように切り返されるとは思ってもみなかったのか、セイゲルは言葉を続けることができないでいた。

 それ以上に、言葉の裏側に見え隠れするシオンの本質。

 それを見抜いたのか、権力を前面に出していいという意見を訂正し、そのままの振る舞いでいいと頼む。

「俺は、科学者とはいえ下っ端。A階級の上司にいいようにこき使われ、愚痴まで聞かされる」

「苦労している」

「しています。家政婦を雇うと引き換えに、再び外界への調査を――まあ、命令されました」

「危険じゃないのか?」

「危険と言っていては、何事も前進しません。危険を承知で出向き、貴重なデーター収集する。そのようにして集まったデーターを基に、プロジェクトを進めていきます。成功はいつになるかは……」

 現在の進行具合からいって、明確に「何年先」と言うことはできない。

 だからシオンは「不明」というかたちで言い切る。

 シオンの言い切りに一番落胆したのはクローリアで、いつまで自分達はドームの中で暮らさないといけないのかと、寂しそうに本音を漏らすのだった。


< 130 / 298 >

この作品をシェア

pagetop