アメット
「生活に必要な物は、上の階で買えばいい」
「お金は……」
「いいよ。俺が払う」
「で、ですが……」
「これくらいは、支払えるよ。こう言うのもなんだけど、科学者って結構いい給料を貰っている」
聞き方によっては自慢話に等しいが、クローリアを安心させるにはこれしかない。
家政婦として雇ってくれるだけでも有難いというのに、それ以上にことまでしてくれる。
シオンの心遣いに何かを言うべきなのだろうが、適切な言葉が思い付かないらしくモジモジとし出す。
階級が上の者とは思えない親切の数々に、セイゲルはシオンのことを「変わった人物」と、見る。
階級を前面に出し、あれこれと命令をしていい立場だが、それを行うことはしない。
最下層の者と対等に話し合い、家政婦の件もクローリアに強制せず選択の余地を与えた。
「本当に、B階級か?」
「それは?」
「もっと、えばった方がいい」
「そうしていいのなら?」
「いや、いい」
まさかそのように切り返されるとは思ってもみなかったのか、セイゲルは言葉を続けることができないでいた。
それ以上に、言葉の裏側に見え隠れするシオンの本質。
それを見抜いたのか、権力を前面に出していいという意見を訂正し、そのままの振る舞いでいいと頼む。
「俺は、科学者とはいえ下っ端。A階級の上司にいいようにこき使われ、愚痴まで聞かされる」
「苦労している」
「しています。家政婦を雇うと引き換えに、再び外界への調査を――まあ、命令されました」
「危険じゃないのか?」
「危険と言っていては、何事も前進しません。危険を承知で出向き、貴重なデーター収集する。そのようにして集まったデーターを基に、プロジェクトを進めていきます。成功はいつになるかは……」
現在の進行具合からいって、明確に「何年先」と言うことはできない。
だからシオンは「不明」というかたちで言い切る。
シオンの言い切りに一番落胆したのはクローリアで、いつまで自分達はドームの中で暮らさないといけないのかと、寂しそうに本音を漏らすのだった。