アメット

 人類がドームの外へ出られるように努力はしているが、なかなかプロジェクトが進行しない。

 言い訳に聞こえなくもないが、シオンを含め科学者達は目標に向かって頑張っている。

 頑張っているがいい方向に物事を持って行くことができず、殆ど行き詰っているといっていい。

 シオンの話にクローリアは、何も言うことができないのか俯いてしまう。

 頭のいい人達が意見を出し合っても簡単に解決できない事柄を、無学の自分が横からとやかく言う資格はない。

 そのように考えているのか、ただプロジェクトが成功するのを静かに待つしかできない。

「……悪いとは思っている」

「謝られることは……」

「謝りたくもなるよ。プロジェクトを立ち上げ、どれくらい経過したか……一向に進んでいない

「ですが、皆様は……」

「この調子だと、一体いつになるのか……生きているうちには、成功させたいと考えている」

「いつまでも、待っています」

「ああ、努力する」

 ふと、シオンの脳裏にA階級の人間の顔が過ぎる。

 特に代表的に上げられるのは自身の上司イデリア。

 その者の顔が浮かんだ瞬間、何とも表現し難い感情が胸の中に湧き出してくる。

 同時にプロジェクトに参加していない者に愚痴っていいものかと、一瞬シオンは躊躇う。

 それでも一度火が付いてしまうと、そうそう止められるものではない。

 また、日頃の積りに積もった鬱憤のいい解消となってしまい、あれこれと一方的に命令を下す上司についても、愚痴を言い出す始末。

 それだけシオンが内に抱いているストレスは、相当のものだった。

 シオンがこれほど饒舌だとは思ってもみなかったのだろう、聞かされる側は唖然となってしまう。

 それでも発せられる愚痴が愉快だったのだろう、エイネールは口許に手を当て笑い出す。

 一方セイゲルは微笑を浮かべると、愚痴を言う上司は「無能なのか」と、尋ねてくる。

「無能では……」

「違うのか?」

「いや、何と言うか……」

 科学者として働いているのだから、無能といっていいものではない。

 といって容量が悪いというわけでもなく、最大の難点は「権力を前面に出す」というところだろう。

 これさえなければいい上司として見られなくもないが、これだけは口が裂けても言うことはできない。


< 131 / 298 >

この作品をシェア

pagetop