アメット

「プロジェクトの名前は、アメット」

「アメット?」

「神話だよ」

「神話は、詳しくなく……」

「上に来たら、調べるといいよ。ああ、クローリア専用にパソコンを購入しないといけない」

「そんな、高価な物を……」

 上の階層の者は、一人一台パソコンを所持し使用するのは当たり前となっているが、金銭面で苦労している最下層の住人がパソコンを購入できるわけがない。

 それを買い与えてくれることにクローリアは感動を覚えるが、同時にそのような代物を貰っていいのか躊躇う。

「あった方が便利だよ。俺が使っているパソコンを使ってもいいけど、仕事で使わないといけない。それに大事なデーターを保存していたりするから、だから専用のパソコンを購入する。その方が、好きな時間に自由に使うことができるから。使いこなせるようになると、面白い」

「それでも……」

「上の階層に来るのなら、最低限の勉強はした方がいい。知識は邪魔にはならないし、あった方がいい」

「お勉強、できるのですか!?」

「勿論」

 シオンが言う「勉強」の単語に、クローリアは瞬時に食い付く。

 最低限の読み書きを学んでいるとはいえ、最下層で高い知識を会得することはできない。

 前々から勉強に興味があったクローリアにとって、シオンが提供してくれる最大級の幸運に素直に感謝してしまう。

 これだけのことをして貰うのだから、家政婦として精一杯働かないといけない。

 クローリアは自身の意気込みを伝えると、シオンは「期待している」と優しい口調で返すと、彼女の両親のもとへ向かう。

 そして家政婦として雇うことにしたので、上部へ連れて行くと話す。

 突然の出来事にクローリアの両親は驚きを隠せないでいたが、現在の身分で雇ってくれるのは有難い。

 また、クローリアは前々から上の階層へ行きたがっているので、引き留めるわけにもいかない。

 ただ、唯一心配なのは最下層の者が上部に行って大丈夫かというもの。

 その心配にシオンはポケットから白い腕輪を取り出すと、これを身に着けていれば上部へ行くことが可能になると話す。

 また、この腕輪自体が家政婦の証となって、同時に身分の証明となってくれる。

 それに正式な手順を踏んでクローリアを雇ってしまえば、特に問題はない。


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