アメット
「それでしたら、安心できます。私達は、この狭い空間でしか生きることができないので……」
「娘を宜しくお願いします」
家政婦として雇われることは嬉しいことだが、両親としては離れ離れになってしまうことが寂しい。
ましてや最下層から離れ、行ったこともない階層で生活しないといけない。
無事にやっていけるのか、それ以上に最下層の住人ということで多くの者から差別を受けないのか。
あらゆる面で心配してしまうが、娘の気持ちを優先したい。
いや、それ以前にB階級のシオンの頼みを断るわけにはいかない。
何処か複雑な心境を抱きながら、クローリアの両親は受け入れた。
すると二人の心情を察したのだろう、シオンは好きな時に帰宅していいと言う。
「本当ですか!?」
「無休で働いて欲しいとは、言わない。それに上の階層に行けるのだから、その逆も可能だ」
時折娘が戻って来ることができると聞き安堵感を覚えたのか、二人の表情に明るさが宿る。
シオンの話にクローリアは、反射的に頭を振る。
生活に欠かせない物を買ってくれ、尚且つ給料も支払ってくれる。
それだけで有難いというのに、好きな時に帰宅していいとは――
これ以上シオンの好意に甘えるわけにはいかないと瞬時に申し出を断るが、シオンはクローリアを「家政婦だから」という理由で、縛り付けるつもりはなかった。
彼女に最低限の自由を与えてやりたいし、折角なのだから年齢相応に上の生活を満喫して欲しいと考えていた。
「シ、シオン様」
「上の世界は、楽しいよ」
「有難うございます」
一体、どのような世界か――
シオンの話に、クローリアの瞳が輝きだす。
話を聞けば聞くほど上の世界への憧れが強まっていき、早く夢にまで見た素晴らしい世界を見てみたいと言い出す。
しかし何事も準備が必要で、シオンはクローリアに左腕を出すように言うと、家政婦の証である白い腕輪を装着する。
「これでいい」
「これで、上に……」
これほど家政婦に雇われて嬉しがっている人物も珍しいが、クローリアの場合は特別といっていい。
シオンはクローリアを一瞥すると、彼女の両親に軽く頭を垂れる。
それが合図となったのだろう、シオンはクローリアを連れドームの中心を貫くエレベーターへ向かった。