アメット
エレベーターが設置されている施設に立ち入った瞬間、クローリアの脚が止まる。
この場所に立ち入ったことが一度もないので、反射的に周囲に視線を向けてしまう。
また、圧倒的な威圧感を放つ機械に恐怖心を覚えるらしく、クローリアの身体が小刻みに震えていた。
「腕輪があれば、平気だ」
「で、ですが……」
「心配しなくていい」
そのように言われても、いざ機械を目の前にすると言い知れぬ不安の方が強くなってしまう。
その場で立ち尽くしているクローリアにシオンは目の前に手を差し出すと、軽く振りこの手を取るように促す。
クローリアは差し出された手を取ると、恐る恐る機械の間を通る。
自分の身に、何かあるのでは――と、クローリアの顔から血の気が引いている。
しかし特に反応を示さない機械に固く閉じていた目を開くと、反射的にシオンの顔に視線を合わせる。
なかなか自身の身に起こった状況を受け入れられないのだろう、何度も瞬きをしていた。
「言っただろう?」
「心配しました」
「その気持ちは、わからなくもない。特に最下層の者は、上に行くことを完全に制限されている」
「これで、エレベーターに」
「乗れる」
シオンはエレベーターの扉を開きクローリアを奥へ通すと、自身は出入り口の前に陣取る。
エレベーターに乗れたことに感動を覚えたのか、クローリアが落ち着かない様子。
それを横目にシオンは壁に設置されている機械を弄りエレベーターを起動させると、上の階層へ向かう。
「到着したら、俺の家に行く」
「ご家族は……」
「一人暮らしだから、気を使わなくていいよ」
「で、ですが……」
「まだ、片付けは終わっていないけど、クローリア専用の部屋を用意する。女の子だから、プライベート空間がないと」
「嬉しいです」
まさに、至れり尽くせりというべきものか。シオンの数々の好意に、感謝しきれない。
クローリアがエレベーターの中を行ったり来たりしていると、目的の階層に到着する。
それに伴いシオンは身に着けていた防護マスクを外し彼女の前で素顔を晒すと、間の抜けた声音が響く。