アメット

「どうした?」

「シオン様って……」

「顔に、何かついている?」

「いえ、そういう訳では……」

 クローリアは曖昧な言い方をするが、彼女が言いたかったのは「思った以上に、外見が若かった」というもの。

 それについてシオンは以前、自分の年齢を話していると伝える。

 今の言葉でシオンの年齢を思い出したのか、失礼な言い方をしてしまったと頭を垂れ詫びる。

「多分、防護マスクの影響だよ。声が籠ってしまって、年齢以上に聞こえてしまったのかもしれない」

「そうでしたか」

「密閉性がないと、マスクの役割がないからね。さて、立ち話もいいけど早く行かないといけない」

 滅多にエレベーターを使用する者はいないが、だからといって長く居続けるわけにはいかない。

 シオンはクローリアを連れエレベーターを降りると、周囲にいた者達の視線が集中する。

 その視線の先にいたのはクローリアで、多くの者が物珍しいモノを見ているかのようだ。

 周囲の視線に気付いたシオンは、クローリアの背中を押すと素早く建物の外へ出る。

 今のクローリアの外見は汚れ、ボロボロに等しい服装は明らかに場違いといっていい。

 これを何とかしないといけないので自宅へ急ぐが、マンションまで距離があるので公共機関を使わないといけない。

 シオン一人なら公共機関を使用できるが、クローリアが一緒なので使用することができない。

 エレベーターを降りた時は視線だけで済んだが、冷たい言葉を投げ掛けられたら確実に傷付く。

 仕方がないのでシオンはクローリアと共に、長い距離を歩きマンションへ向かう。




「……高い」

「この最上階」

「では、眺めが……」

「凄くいいよ。この階層の端まで見ることができ、夜の時刻になると明かりが輝いて見えて綺麗だ」

 最下層は高い建物がないので、このような高層の建物は珍しい。

 その一番上に登ったら、どのような風景を見ることができるのか。

 クローリアは瞳を輝かせながら、風景を見たいと言う。

 彼女の申し出にシオンは快く頷くと、エレベーターを使用し最上階の自身の部屋に案内する。


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