アメット

「……凄い」

 眼下に広がる、はじめて見る光景にクローリアは興奮を覚える。

 このマンションは相当高い建物なのだろう、殆どの建物を下に見る。

 また行き交う人々は小さく、ちょこちょこと動いている姿は可愛らしい。

 それら全てが面白く映るのだろう、クローリアは窓から離れない。

「まだ、天井は明るい。これが暗くなれば、建物の明かりが綺麗に見える。で、一度家に来たのは……」

 汚らしい外見をしているクローリアに風呂に入って貰い、身嗜みを整えて貰わないといけない。

 今の状況では限られた場所にしか行くことができず、クローリアが恥ずかしい思いをしてしまう。

 だから風呂に入って綺麗にしてから、買い物に行こうとシオンは提案する。

 案内された風呂場を見た瞬間、クローリアは動揺を隠し切れない。

 最下層でも風呂に入るという習慣はあったが、これほど清潔で立派な設備は存在しない。

 ましてやシャンプーにリンス、ボディーソープなどを見たことはなく、石鹸で髪や身体全てを洗っていると話す。

「使い方は?」

「教えて頂ければ……」

「わかった。特に、難しくないからすぐに覚えられるよ」

 クローリアの頼みにシオンは、使い方を丁寧に教えていく。

 そのひとつひとつに頷き返し、時折溜息を漏らしながら感動する。

 クローリアにとって一番衝撃的だったのは、お湯が出るシャワー。

 このような信じられない設備に「本当に使っていいのですか?」と、聞いてしまう。

「いいよ。クローリアは、この家の家政婦になったのだから。で、着替えはどうしようか……」

 現在着ている服を洗濯してしまうと、着る服がなくなってしまう。

 だからといって一人で買い物に行っても、女の子の好むファッションはわからないので無理。

 それなら一時的に自分の服を貸せばいいと、シオンはクローリアに着替えとタオルの用意をしてくると言う。

「わ、私は……」

「入っていいよ」

「で、では……」

「ごゆっくり」

 そう言いシオンは寝室へ向かうとクローリアに似合う服を探すが、なかなかいい服が見付からない。

 その中から適当に選び出すと、髪を乾かすのに欠かせないドライヤーとタオルを一緒に持って行く。

 それらを風呂場の出入り口付近に置くと、汚れ物の洗濯を開始する。


< 136 / 298 >

この作品をシェア

pagetop