アメット
彼等の目の前に現れたのは自分達と同じ階級の者だが、いかんせん内に抱いている意見が同じというわけではない。
相手はどちらかといえば「長いものには巻かれよ」というタイプで、階級が上の者の悪口が相手の耳に入ったら告げ口されてしまう。
だから二人は口をつむぎ、やり過ごそうとする。
相手はシオンとアイザックを一瞥するが、それ以上の反応は示さない。
ただ、自動販売機で目的の飲み物を購入するのみ。
このまま立ち去ればいい――そう彼等は心の中で本音を発するが、何を思ったのか相手は彼等に対し声を掛けてくる。
勿論、彼等はいい顔をしない。
「何をしている」
「休憩。見て、わからない?」
「仕事は?」
「だから、休憩だって」
「君達は、いつも休憩しているように見えるけど。本当に仕事をやっているかどうか、怪しいね」
相手の発言にシオンとアイザックの顔が同時に引き攣るが、グッと感情を押し殺す。
二人で猛毒をたっぷり含んだ言葉を言い続ければ相手に適わないことはないが、下手なトラブルは身の破滅を招くとわかっているので、相手の気に入らない言葉を上手く横に流していく。
「俺は、外界に行っていた」
「ああ、それは知っている。何でも、サンプルを強風に吹き飛ばされるという失態を犯した」
「失態……かな?」
「失態だよ。珍しいサンプルだったら、どうするんだ。素晴らしいデータが収集できたかもしれない」
相手の言葉にも一理あるが、あの状況でサンプルを護るのは難しい。
外界の気象状況はデータ通りにいくわけではなく、相手は気紛れが目立つ自然。
シオンは状況の悪化の場合「命を護る方を優先」という規約があることを伝えるが、相手はシオンの言葉を鼻で笑った。
「規約より、データだよ」
「何?」
「そうすれば、上の方が喜ぶ。ひいては、プロジェクトの成功に繋がる。そんなこともわからないのか」
一方的に言われ続けることに耐えられなくなったのか、シオンが身を乗り出し罵倒しようとする。
しかし寸前でアイザックに白衣を掴まれ、目線で「冷静になれ」と言われ、渋々ながら口をつむぐ。
それでも苛立ちが納まらないのか、シオンは利き手を握り締め拳を作る。