アメット

「パソコンは、難しいのですか?」

「慣れれば、簡単だよ」

 シオンは仕事やプライベートで使用しているので特に難しいと感じないが、一度もパソコンを弄ったことのない者なら難しいだろう。

 使い方を誤り初期化してしまったという話を聞いたことがあるので、クローリアにパソコンを使われそのようなことをされるのではないかとシオンは恐れた。

 だからクローリア専用のパソコンを購入し、それを使って扱い方を学んで欲しいと考えている。

 最下層では一人一台のパソコンなど夢のまた夢で、自分専用のパソコンが使えることに感謝しきれない。

 それ以上に上手く使いこなせるようになり、壊さないようにしないといけない。

「壊れたら、修理に出すよ」

「そうならないように、努力します」

「駄目の時は駄目なので、気にしなくていい」

「……すみません」

「謝らなくていいよ」

 そのような話をしていると、コーヒーと紅茶が二人の目の前に運ばれてくる。

 シオンは注がれているカップを指差すと、どちらがコーヒーでどちらが紅茶と説明する。

 クローリアが先に味を楽しんだのはコーヒーだったが、予想以上に苦かったらしく眼元に涙が滲み出す。

「苦い?」

「……苦いです」

「毒じゃないよ」

「毒だったら、困ります」

「ミルクと砂糖で調整すればいい」

「これでしょうか?」

 クローリアは角砂糖をひとつ取るとコーヒーの中に入れ、続いてミルクを注ぐ。

 これで先程より飲み易くなったが、だからといって苦味が完全に消えたわけではない。

 相変わらず渋い表情を作っているクローリアに、シオンは紅茶が注がれているカップを目の前に差し出す。

「紅茶の方が飲み易いかもしれない」

「有難う……ございます」

「やっぱり、駄目だったか」

 紅茶を一口口の中に含むと口内に残っている苦味を洗い流し、喉を鳴らしながら飲み込む。

 思った以上に紅茶が飲み易く美味しかったのか、クローリアの表情が徐々に緩んでいく。

 またいい香りが気に入ったのか、こんなに素敵な飲み物があったのだと素直に驚いていた。


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