アメット
「普段は、何を?」
「嗜好品の飲み物は、残念ながらありません。水を飲むことが多く、それもちょっと汚れていて……」
「……嫌なことを聞いた」
「いえ、そのようなことはありません。ですが、飲み物ひとつ取っても此方は恵まれていると……」
クローリアの語る内容に、シオンは何も言えなくなってしまう。
確かに、この階層の生活は恵まれているといっていい。
特に不自由することなく生活ができるので、上の階層に憧れを抱いたとしての行きたいと願う者は滅多にいない。
しかし最下層の生活は、劣悪な環境だ。
上の階層へ行きたいと願っても、エレベーターの前に生体データーをチェックする機械が設置されているので、エレベーターに乗ることさえできない。
牢獄のような環境に閉じ込め下の者を作り出し、明確な階級制度を敷いて統治しているドームの現状に、シオンはいい思いをしない。
何とかしないといけない。
勿論、その思いは強く、統治者一族の者なので実行は可能だ。
だが、他の二つの一族が賛同してくれるのか――
可能性として、限りなくゼロに近い。
そのようなことを考えていると、クローリアがシオンの職業について尋ねて来る。
以前科学者として働いているということは知っていたが、どうしてその職業を選択したのか――
上の階層に来たことによりあれこれと好奇心を抱くようになったのか、その理由を知りたいという。
「正義の味方」
「正義?」
「冗談」
「でも、正義の味方はかっこいいです」
「正義の味方とはかっこよく言い過ぎだけど、早く外に出たいというのが本音だね。だから、その道に進んだ」
「嫌……なのですか?」
「調査で外界へ行くことがあるけど、今は荒れ果て汚染され汚い。だけどこれが綺麗になったら、どんな世界になるのか。外界は広大で、何物にも遮られることはない。そんな世界を旅したい」
それが可能となってほしいから、シオンは科学者を目指しプロジェクトの一員として努力している。
またクローリアに語ることはしないが、いつまでもドームの中で暮らしているわけにもいかない。
閉鎖した空間が続けば、いつかもっと酷い差別が行われるのではないかと考える。