アメット
「今、これしか用意できない。寝具一式は後で注文しておくから、好みの色があったら教えてほしい」
「橙が好きです」
「橙……か、わかった」
最下層では自分専用の物を殆ど持つことができなかったのだろう、自分好みの色を持つ寝具が手に入ることにクローリアの表情が綻ぶ。
何事にも一喜一憂するクローリアに、シオンは此方の階層に来て感情が豊かになったのではないかと考える。
現に、最下層の時は暗い表情をしていることが多かった。
「ドーム内は一応気温が安定しているけど、寒さを感じるようだったら暖房器具を使ってもいい」
「暖房?」
「今、持ってくる」
シオンが寝室から持って来たのは、縦型の機械。
はじめてみる機械に興味津々なのか、クローリアはその機械を凝視し続ける。
それを部屋の隅に置くと簡単な使い方を説明するが、クローリアが簡単に飲み込めるわけがなく、何度も使い方を聞きやっと使えるようになる。
「難しいです」
「これは簡単な方だよ。これで難しいと言っていたら、パソコンはもっと難しい機械だし……」
「これより難しいのですか!?」
「勿論、使い方は教える」
「じ、自信が……」
「最初から使いこなせる人なんていないよ。いたとしたら、その人は天才や超人かもしれない」
「シオン様は?」
「俺は凡人だから、最初から使いこなすことはできなかった。練習し、今自由とまではいかないが使えている」
科学者であるシオンは何でもこなせる立派な人物――
と思い込んでいるクローリアにとって、シオンが使いこなせなかったことにちょっと安堵感を覚えるが、同時にそれほどの物を使いこなせるようになるのか心配になってしまう。
彼女の不安にシオンはフッと笑うと「気張り過ぎ」と、言う。
「完璧を目指さなくていい」
人間なのだから時に失敗し、躓いたりすることもある。
それ以上にクローリアは最下層から来たばかりなので、知らないことやわからないことが多岐に渡る。
それだというのにこの階層の者と肩を並べようとしても無理が生じ、少しずつ覚えていいとクローリアを優しく諭す。