アメット

「練習し、最終的に使えるようになればいいことだから。で、疲れていない? 疲れていたら、休んでいいよ」

「では、お先に……」

「お休み」

「お休みなさい」

「また、明日」

 それだけを言い残し、クローリアの私室になった部屋から出て行くシオン。

 クローリアは受け取った寝具のひとつを床に引くと、その上に座る。

 用意された寝具の中に枕はなかったが特に問題はなく、ふかふかな毛布で身体を包むと、そのまま倒れるように横になった。

(……温かい)

 この世に、こんな温かいのがあったのか――

 最高とも呼べる質感に、クローリアはうっとりとしてしまう。

 このような立派な物は最下層に存在しなかったので、驚きを隠せない。

 しかしそれ以上に質感がいい毛布に包まれているので、徐々に眠気がやって来る。

 そしていつの間にか深い眠りに落ち、珍しくいい夢を見た。


◇◆◇◆◇◆


 翌日。

 早い時刻に目を覚ましたシオンはパジャマから着替えると、真っ先にクローリアの様子を見に向かう。

 ドアの先は物音ひとつしないので熟睡中なのだろうか、シオンは音をたてずにドアを開き、中の様子を伺う。

 案の定、クローリアはスヤスヤと寝息を立て眠っていた。

 クローリアは家政婦として雇われていることを忘れているのか、気持ち良さそうに寝ている。

 彼女を起こそうと部屋の中に立ち入った時、気配を感じ取ったのかクローリアが反射的に身体を起こす。

 起きた当初、まだ寝ぼけているのか定まらない視線を周囲に走らせる。

「おはよう」

「……おはようございます」

「起きた?」

「わ、私……」

 シオンの声音にクローリアは現状を把握したのか、あたふたするしかできない。

 貸して貰った毛布の肌触りが最高だったので、ついつい長く寝てしまった。

 家政婦として主人より先に起きなかったことにクローリアは謝ると、明日はきちんと早く起きることを約束する。


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