アメット

 日頃から母親の手伝いをしていたのだろう、器用にフライパンを振る姿はベテランの主婦を見ているようだ。

 ベーコンがいい色に焼け野菜がしんなりとしてきた頃、クローリアは周囲を見回し調味料を探す。

 その動作から彼女が何を欲しているのかすぐにわかったシオンは、塩と胡椒を差し出す。

「有難うございます」

「個人的には、薄味がいい」

「わかりました」

 シオン好みの味付けということで、使用する調味料は僅か。

 全体に味が行き渡るように混ぜ合わせると、野菜炒めが完成する。

 するとタイミングを見計らったかのようにパンが焼け、シオンは冷蔵庫からマーガリンと飲み物を取り出すと椅子に腰を下ろし、食事にする。

「どうでしょうか?」

「美味しい」

「良かった」

「料理、上手いね」

「時々、母に代わってやっていました」

「ああ、だからか」

「これから、多くの料理を作れるように頑張ります。シオン様が好きな料理も、作れるようにならないといけませんし」

「期待している」

 はじめて作った料理を褒められ余程嬉しかったのだろう、クローリアは頬を緩ませながら野菜炒めを口いっぱいに頬張る。

 やはり食べている姿は愉快で可愛らしく、美味しい食事をしていることが彼女にとっての幸福なのだろう、またクローリアの新たな一面に気付かされる。

 ふと、シオンは何か重要なことを思い出したのか、間延びした声音を発する。

 突然の声音にクローリアは食事を止めると、キョトンっとした表情でシオンの顔を凝視し首を傾げる。

「忘れていた」

「何か、料理に……」

「いや、料理は問題ないよ。凄く美味しい。クローリア専用というか、家政婦が持つカードの手続きを忘れていた」

「そのような物が……」

「そのカードは、一日に使用できる金額が設定されている。その他に、高級な物を買うことができない制限付き。カードの支払は月末で、雇い主がやらないといけない。そのような機能がないと破綻してしまうし、後々が面倒だ。勿論、これも生体認証が深く関わってくる」


< 157 / 298 >

この作品をシェア

pagetop