アメット

「宜しいのですか?」

「何が?」

「そのようなカードを持って」

 家政婦とはいえ主人の身の回りの品や日用品や食料品を購入しないといけないので、ある程度の金を持ち歩かないといけない。

 だからといって家政婦相手にカードを発行してくれる民間機関は存在せず、公の機関がこのように一括して管理するシステムを構築してくれた。

 それに何かトラブルが発生した時の防御策も完璧で、もし不正使用されれば即停止。

 家政婦の地位は剥奪され、本来の階層に戻される。

 しかしそれはまだいい方法で、最悪の場合投獄されてしまう。

 それら全ては家政婦側に処罰が行き、雇い主は一切御咎めがない悪法だ。

「雇ったばかりで帰られるのもなんだから、そのような点には注意して欲しい。まあ、普通に使っていれば引っ掛からないよ」

「心配です」

「こういうことで捕まった人がいるとは聞いたことがないし、全員が気を付けて使っているのだろう」

「家政婦には、厳しいのですね」

「厳しいといえば、厳しいね。そもそも、階級制度が存在しているのだから仕方ない。雇う側としては、必然的に下の階級の者を選んでしまう。だから、何があっても自分は関係ない」

「シ、シオン様は……」

「俺の場合は、多くの場所に行き多くを見ている。階級制度に縛られるのも、正直嫌いなんだ」

 そう言った後、シオンは何を言っているのだと苦笑する。

 このようなことを面と向かって言っていいものではなく、誰かに聞かれたら一大事だ。

 シオンは口許に人差し指を当てると、これについては二人だけの秘密にしておいて欲しいと頼み、止まっていた食事を再開する。

「シオン様の同僚は皆……」

「うん?」

「いえ、何でも……」

「一人だけ、賛同者がいる」

「シオン様?」

 無意識に呟かれた言葉に、クローリアは過敏に反応を示す。

 彼女にとってシオン以外の人物は階級制度を前面に出し、それが当たり前と思っている人物ばかりだと考えていた。

 だが、シオンのように現在の階級制度に疑問を持つ人物がいることが以外で、驚愕に値する事実だった。


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