アメット

 湧き上がる好奇心をグッと抑え込むと、クローリアはシオンの私室の前から立ち去る。

 次に向かったのは分け与えられた自分専用の部屋で、散らばっている寝具をテキパキと片付け掃除を行う。

 しかし途中で何か思うことがあったのか手を止めると、部屋の中を見回す。

 最下層に暮らしていた頃、自分専用の部屋を持っていたがこれほど広い部屋ではない。

 それに建物自体古めかしかったので内装は汚く、壁紙の一部分は捲れていた。

 水が基調だったので調理や洗濯以外で使用することは滅多になく、このように掃除さえも殆どできなかった。

 この後に、新しい寝具がやって来る。

 そして給料を貯め一部を両親に仕送りし、少しでも楽な生活をしてもらわないといけない。

 特に父親には効能が高い薬を服用して貰い、早く回復し昔の父親を見たいとクローリアは願う。

 今は安い薬で体調の悪化を防いでいるようなもので、本格的な回復には至らない。

 ただ、私物も購入したい。

 また、多くの事柄を知りたい。

 それと、勉強も――

 ショッピングモールで多くの物品を見たクローリアにとって、年相応の女の子らしい一面を覗かせる。

 可愛い物を素直に可愛いと思い、素敵な物を素敵と表現できるまで変化した。

 最下層にいた時とは違う感覚にクローリアは最初戸惑いを覚えたが、ショッピングモールでの経験は最高といっていいもの。

 まさに夢の世界のような空間に、今も鮮明に覚えている。

(でも、その前に……)

 生活の基本となる、食事について何とかしないといけない。

 いくら料理ができるとはいえ、クローリアが作れる料理は限られている。

 数種類しか作れなければワンパターンになってしまい、いくらそれらの料理が美味しいとはいえ何度も食べ続ければ、いずれ飽きられてしまう。

 シオンの好物がシチューと聞いているので、この料理を早く作れるようにならないといけない。

 しかし、その作り方をどのように学べばいいのか。

 料理の作り方は母親から教えて貰っていたが、此方の階層に来て流石にそれを行うことはできないので、シオンに聞かないといけない。

(頑張ろう!)

 自分自身にそう言い聞かせるとクローリアは掃除を再開し、途中で洗濯が終わった洋服を乾燥機に入れる。

 これほど便利な物が最下層にあったら、どれほど仕事が楽になるか――

 と作業しつつ考えるが、住人全員がこれらの家電製品を持ったら電気量が足りなくなってしまう。


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