アメット
第五話 信頼と絆
その夜――
アイザックは早めに仕事を切り上げ、シオンの呼び出しを受ける。
周囲に目があると話し難いということで、シオンが指定したのは研究所の裏。
滅多に人が訪れることのないこの場所は人工の明かりが殆ど差し込まないので薄暗く、また掃除も行き届いていないらしく汚い。
このような場所で待ち合わせは気分的にいいものではないが、人目が付かない場所となるとここが適当だろう。
まだシオンが到着していないのでアイザックは周囲に視線を走らせつつ待つが、薄暗い場所に長い時間いると寂しさが込み上げてくるのだろう落ち着きがない。
(……まだか)
約束の時間が迫っているが姿を現さないシオンに、上司から何か込み入った仕事を押し付けられたのか――と、予想する。
しかしそのようなことはなかったらしく、建物の影からシオンが此方に向かってやって来る。
そして、仕事を片付けるのに手間取ってしまったと詫びる。
「いいよ。で、話は?」
「驚かない?」
「話によるけど……」
「アイに昔から隠していて、言わないといけないことがある。俺は、B階級の人間じゃないんだ」
「Bじゃないって、A階級か?」
「いや、違う」
「違うって、その上は……」
A階級の上となれば、統治者一族しかいない。
まさかそのようなことは有り得ないとアイザックは笑い、冗談を言わないで欲しいと言い返すが、シオンは表情を崩さない。
変化を見せないシオンにアイザックは何と言葉を返せばいいかわからないらしく、動揺を隠せない。
「嘘だろう」
「本当だ」
「しかし、お前は……」
「普段、俺はバイハームと名乗っているが、本当の名前はセレイド。現在の統治者は、父親だ」
語られる真実に、アイザックの思考が混乱してしまう。
頭の処理能力が追い付かないのか、一度落ち着いて整理したいと言い出す。
それでも受け入れるのに時間が掛かるらしく、言葉として発せられるのは「シオンが、統治者一族」という呟きで、身体が微かに震えていた。