アメット
「生体データは、どうなっているんだ。今、生体データではB階級になっているじゃないか」
「弄っている」
「できるのか?」
「それに長けた者がいて、特殊な方法を用いている。勿論、この方法は教えることができない」
「統治者一族なら、不自由ない生活ができるだろう? それなのに、どうしてこの階級に……」
話からして嘘を言っているようには思えなかったが、アイザックにしてみれば統治者一族という誰もが羨む地位を持っていながら、どうして階級を下げてまで科学者として生活していることが信じられなかった。
アイザックの本音にシオンは俯くと、ゆっくりと話し出す。
「それには、父さんの影響が強く働いている。父さんは、人類が長くドーム内で暮らすことを危惧していた。今のままのような階級制度が長く続けば、もっと悲惨な状況になるのではないかと考えている。だからプロジェクトの成功を願い、あれこれと手助けをしている」
「確か、統治者一族は……」
「アンバードとクルツ、それとセレイド……その三つだ。しかし、父さん以外はプロジェクトに賛同していない」
「何故?」
「父さんの話では、ドームの外に出ることになれば、今の権力をそのまま持ち続けられるとは限らない。絶大な権力を失いたくない……だから、他の一族はプロジェクトの成功を願わない」
シオンの話に、アイザックはいい表情をしない。
A階級の人間は自分勝手のプライドが高い者が目立つので気に入らなかったが、まさかドーム全てを統治している者達も変わらないとは――
プロジェクトが前進せず、同じ場所を行ったり来たりしている意味を何となく理解する。
「シオンは……」
「うん?」
「どうして僕に話す」
「アイ……いや、アイザックを信頼しているから。それにいつかわかってしまうなら、自分から……」
科学者として多くの人物と交流を持った中で、気を許せて何でも話せるのはアイザック以外いない。
真顔でそのように話すシオンと違い、言われた側は動揺を隠せない。
しかしそのように言われて悪い気持ちはしないのだろう、アイザックは笑うと「同じく」と、返した。