アメット

 それらを失いたくないからこそ、ひとつの一族が絶大な権力を所持することを嫌っている。

 大気を浄化し、外界へ向かう――

 それは彼等にとってどうでもいい事柄で、いかに今の状況を保持するか躍起になり、特にアンバードとクルツの一族は互いに火花を散らしている。

 足の引っ張り引っ張り合い。

 貶したり罵倒したり。

 策略を練り練られ。

 一見華やかな世界に見えて、負の感情が入り混じる。

 現に統治者の集まりでシオンはアンバードの者に牽制され、いい思いをしていない。

 それ以上に権力に媚びる者も鬱陶しく、特にあらゆる物を手に入れたい女は目の色を変え、統治者一族の次期後継者に尻尾を振り続ける。

「何かあったのか?」

「色気を使われた」

「……うわ!」

「膝に乗られた」

「えっ!?」

「それだけ、権力が欲しいんだよ」

「権力が欲しいのは、何となく……」

「勿論、その理由はわからなくもないよ。ただ、何と言うか……その……やり方が苦手で……」

「確かに……」

 スタイルが良く妖艶な女に迫られ喜ばない男はいないだろうが、シオンから彼女達の本性を知った今、アイザックは顔を引き攣らせる。

 彼女達はシオンという人間を愛しているわけではなく、彼が持つ権力を欲している。

 それをまざまざと見せつけられるのだから、辟易してしまう。

「権力者も大変だ」

「だから、アイの存在は大きい」

「なるほど」

「で、話はこれで終わり」

「結構、面白いのに……」

「長く話していると、怪しまれる」

「そうか、煩い奴か……」

 その「煩い」人物が数人脳裏を過ぎったアイザックは、今回は仕方がないと引き下がることにする。

 研究所に残っている者に気付かれないように、シオンとアイザックは時間を置いて戻っていく。

 幸い、研究所の裏手での話は誰にも聞かれることなく済み、噂にもならなかった。

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