アメット
「天職?」
「かな」
「僕は、学生時代から科学の分野に興味があったからこの仕事を選んだ。結果的に、楽しんでいる」
「なら、天職じゃないか」
「……そうか」
「で、今後の予定は?」
「今日は帰宅で、明日は休み」
「休みか……羨ましい」
「休みが欲しいから、誰も行きたがらない外界へ赴いたんだ。休暇くらい貰わないと、割に合わない」
シオンの意見に納得するように、アイザックが何度も頷き返す。
日々、忙しい科学者としての生活。
その中で手っ取り早く休暇を勝ち取る方法が、シオンが用いた外界へ調査に赴くというもの。
勿論、プロジェクト成功に欠かせないのが外界の調査なのだが、誰も好き好んで外界へ行くわけではない。
結果、毎回が押し付け合い。
しかし今回シオンは自ら立候補し、見事休暇を勝ち取った。
「それ使っていいかな?」
「いいんじゃないか。自分から外界へ行くと言ったら、周囲は大喜びし英雄扱いしてくるぞ」
「大袈裟だね」
「それだけ、外界へ行くというのを嫌っているのだろう。現に、大気の変化は人間にとって脅威だ」
勿論、外界の天候の調査と予報は行われているが、いかんせん相手は気紛れの代名詞である自然。
時に人間の理屈を超越した現象を起こし、外界へ赴いた人間を苦しめる。
また大気が正常であった時より不安定になる確率が高く、現在の科学力を持っても予測は難しい。
シオンとアイザックがあれこれと真剣な話をしていると、会議に参加していた連中の一部が休憩スペースに姿を現す。
その者達の出現にアイザックは、会議が終了したことを知る。
「さて、僕は……」
「ああ、また今度」
長話をしていたことによりちょうどいい温度まで冷めたブラックコーヒーを飲み干し紙コップをゴミ箱に捨てると、アイザックはシオンに向け軽く手を振る。
それに対しシオンも手を振り「連絡する」と言い残すと、自分の仕事スペースがある研究室に足を進めていた。