アメット
「ポテトサラダって、買い物に行ったんだ」
「いえ、行っていません」
「なら、じゃがいもは?」
「冷蔵庫の掃除をしていましたら、奥から発見しました。まだ芽が出ていませんでしたので、勿体なく……」
「そういえば、買った記憶が……仕事が忙しくて、買っても使わないことが多いから助かった」
「喜んで貰えてよかったです」
「そういえば、どうして買い物に行かなかった?」
「鍵が……」
クローリアの言葉に、シオンはサンドイッチを食べる手が止まる。
あれこれとクローリアが暮らしやすいように準備を進めていたが、いかんせん肝心な部分をスッカリ忘れていたとシオンは気付く。
鍵の番号を教えておかなければ外へ出ることもできず、軽い軟禁状態だ。
「ご、御免」
「い、いえ。構いません」
「ロック解除の番号を教える」
シオンの言葉に、クローリアは何度も頷く。
ロックの解除番号は六桁なので頑張って覚えて欲しいと言い、番号を伝える。
大事な番号なので忘れてはいけないと、クローリアは何度も番号を呟く。
彼女は記憶力がいい方なのだろう「多分、大丈夫」と言い、笑顔を作る。
「頭がいいね」
「そ、そうでしょうか」
「記憶力がある」
「ですが、六桁ですので……」
「普通、六桁を瞬時に覚えることはできない。相当記憶力に自信があるのなら、別だけど……」
「そういうものなのですか」
いまいち自分の記憶力の凄さがわからないクローリアは、首を傾げている。
だが、これはシオンにとっては重要なことで、クローリアのポテンシャルの高さを物語るのに十分な証拠だ。
彼女に勉学を施したら――
利口で賢いクローリアに、この階層で生きていくのだから最低限の勉学をさせてやろうとシオンは考えていたが、彼女の記憶力の高さを知った今、それ以上の勉強をさせたらどのように化けるだろうか。
やはり「最下層だから」といって別けてしまうのは、適切ではないと改めて知る。