アメット

 いい加減、パソコンを買わないと――

 ポツリと、シオンは心の中で呟く。

 明日、外へ昼食を取りに行くと行って、買い物に出掛けてもいいだろう。

 立て続けに出費が続くが、性能がいいパソコンを購入しなければ大丈夫――

 と、シオンはサンドイッチを食べながら自分に言い聞かせる。

 だが、出費が続くと懸命に働いて給料を稼がないといけない。

 その時、シオンが所持している携帯電話が鳴り出す。

 着信相手はアイザックで、携帯電話を手に取ると特に躊躇うことなく電話に出ることにした。 

 アイザックからの第一声というは「何処で何をしている」というもので、シオンは自宅に戻って夕飯を食べていると伝えた。

「そう、クローリアと」

 急に名前を呼ばれたことに、サンドイッチを食べていたクローリアの身体が硬直する。

 そしてサンドイッチを咥えながら、首を傾げている。

 彼女の反応にシオンは「悪いことを言っているわけではない」と言い安心させるが、その言葉もアイザックに聞こえていたので笑われてしまう。

『料理は、その子お手製か』

「……まあね」

『美味い?』

「美味しいよ」

『一緒に頂きたい』

 アイザックからの言葉にシオンは告白時のやり取りを思い出すと、クローリアに友人が手作り料理を食べたいと言っていると伝える。

 シオンからの突然の言葉にクローリアは微かに頬を紅潮させると、もっと練習しないと簡単な料理しか作れないと俯きながら小声で囁く。

「今は、駄目だって」

『どうして』

「練習したいって」

『そういうことなら、仕方ない』

 無理強いしていいものではないとわかっているので、アイザックは素直に引き下がることにする。

 しかし「食べたい」という気持ちは強く残されているらしく、美味しい料理を期待していると伝えて欲しいと頼む。

 友人からの言付けにシオンはそのまま伝えると、クローリアがオズオズと顔を上げた。

 断ってしまったことに、主人の友人に悪いことをしてしまった――という思いが強く働いたのだろう、クローリアは手の込んだ料理でなければ作ってもいいと話す。

 彼女の心情にシオンは「本当にいいのか?」と尋ねると、クローリアは何度も頷いて「頑張ります」と、返す。

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