アメット

「も、勿論です」

「来月は、満額支払う」

「お、お願いします。というより、満額を頂けるだけの仕事をできるようにしませんと……」

「それで、料理本か」

「……はい」

「クローリアを見て思ったけど、最下層の人って働き者なのかな? あと、真面目というか……」

「最下層では働かないと、やっていきません」

「あの状況だと、それしかできないか。クローリアには悪いことを聞いてしまった、すまない」

「そんなことはありません。シオン様と出会っていなければ、こうやって上の階層に来るなんて……」

 だからシオンに尽くし、一人前の家政婦にならないといけない。

 自分が身に着けている能力以上のモノを出そうとしているクローリアに、シオンは特に言葉を掛けることはしない。

 「無理をしなくていい」や「気張らなくていい」と言っても、彼女は聞き入れてくれないからだ。

 他の家政婦は、どうなのか――

 家政婦として働いているのだから、根は真面目だろう。

 それに気難しい人物も中にはいるだろうから、クローリアに気張っている者いるかもしれない。

 家政婦同士の交流の場があればいいだろうが、シオンはそのような集まりがあることを知らないし、聞いたこともない。

 もしないのなら、作ればいい。

 そのような考えもなくもないが、B階級として生きているシオンにできることは限られている。

 それなら統治者の集まりがあった時、父親に意見をするのもいいだろう。

 主人に仕え働いている者達も、心の安らぎがあってもいい。

 また同じ職種同士で話すのは楽しいと、シオンは知っている。

「あの……シオン様」

「うん?」

「おかわりは……」

「あるのか?」

「ポテトサラダが残っています」

 美味しいポテトサラダが残っていることに、シオンは空になった皿をクローリアの目の前に差し出す。

 言葉を掛けなくともこの行為が示すのは「もっと食べたい」というもの。

 シオンの反応にクローリアは皿を持ち椅子から腰を上げると、いそいそとキッチンへ向かった。

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