アメット
冷蔵庫から大きいボウルを取り出すと、その中からポテトサラダを取り出していく。
クローリアが更の上に盛っているポテトサラダの量は多く、一体どれくらい作ったというのかというくらい山盛りにしている。
それを眺めていたシオンは、それについて反射的に尋ねる。
「じゃがいもが、沢山余っていました」
「そんなに……」
「使いませんと、勿体なく……じゃがいもは芽が出ると、食べられませんので。いけませんでしたか?」
「いや、そんなことはないよ。こうやって使ってくれて有難いし、一人だと処分はできないから」
「そう言って頂けると、嬉しいです」
シオンのお褒めの言葉に、クローリアは大量のポテトサラダを盛った皿をシオンに差し出す。
今日の夕食のメインはポテトサラダというくらいの量であったが、これはこれで美味しいので手が止まらない。
そして瞬く間のうちに全てのポテトサラダが胃袋に納められ、シオンは満足する。
頬を緩まして食べているシオンの姿を、クローリアは無意識ながら眺めてしまう。
料理を作って誰かに食べてもらうのは、両親以外ではじめて。
それでも若い異性なのだから、意識しないわけがない。
体験したことのないことにパニックに陥ったのか、クローリアはか細い悲鳴を上げる。
「どうした?」
「い、いえ……」
「具合、悪い」
「そんなことはありません」
「それならいいけど……もし、体調が悪くなったらすぐに言うように。病気は、早い方が治りやすい」
「……治る」
「あっ! 悪い」
シオンが発した言葉によって自分の父親のことを思い出したのだろう、クローリアの顔が強張る。
彼女の父親の病気は上の階層で適切な治療を受ければ完治するだろうが、あの場所に居続けては治るものも治らない。
それに薬も飲まないことも多いようで、なかなか完治に至らない。
この階層で売っている薬を服用すれば、完治するか――
囁くように発したクローリアの声音に、シオンは優しく頷き返す。
そして使用していた皿を持ち立ち上がると、彼女の肩を叩く。
「沢山、薬を送ってやろう」シオンからの言葉にクローリアは顔を綻ばすと、心優しい人物との出会いを演出してくれた運命に感謝していた。