アメット
「なるほど」
「そういう奴だ」
「なら、手を貸してくれた方が有難い。統治者としての権力を使えば、スムーズに進んでいく」
「それをしないのが奴等だ」
「だけど来た」
「矛盾している」
「……だな」
結局のところ、アークは下の階級の者を考えていない。
自分に注目を浴び、自分の名前を売ることができればいい。
だから視察と言いつつも、本当に視察をしているわけではない。
真剣に視察しに来たというのなら親身になって見聞きしているだろうが、その気配はない。
これにより「アンバード家のアークは、下の者にも目を向けている」と、知られるだろう。
自分に有利になることに関しては頭がよく回るものだと、シオンは呆れてしまう。
その回転のいい頭を別の方向で使えばいいのだが、残念ながらアークは其方に使うことはしない。
「とんでもない奴だ」
「そういう発言は、俺の前だけがいい」
「聞かれたらマズいか」
「そう」
本来であったら同じ統治者であるアークの味方をするべきだが、反りが合わないので味方することはしない。
アイザックの方が付き合い易く、このように愚痴を言い合えるのだから面白い。
だから前に言ったように、シオンはアイザックの身に何かがあったら守る気だ。
「で、どうだ?」
「難しい」
「これでは本格的にできないから、設備を借りるか。今の状況だと、やれることが限られてしまう」
「プロジェクトは、どうする?」
「それなんだよな」
「申請を出すか」
「愚痴がプラスされそうだ」
いくら上からの命令であったとしても、シオンとアイザックの上司は愚痴のひとつやふたつ言わないと気が済まない性格。
それを知っているからこそ、二人は同時に肩を竦めてしまう。
しかし課せられた命令は優先しないといけないので、申請をきちんと出さないといけない。