アメット

 目的の店に到着すると、椅子に腰掛ける前にウエイターに「オムライス二つ」と「アイスコーヒー二つ」を注文する。

 シオンとアイザックは向かい合うかたちで椅子に腰を下ろすと、盛大な溜息を付く。

 やっと美味しい飯にあり付けることに安堵感を覚えるのだろう、二人とも寛いでいた。

「……疲れた」

「精神的に?」

「当たり前」

「あの人……か」

「それ以外いないだろう」

 流石にこの場所で「アーク・アンバード」の名前を出すと大事になってしまうので、口に出すことはできない。

 また、口に出してしまえばどのような関係なのか、疑われてしまう。

 だからアイザックは「あの人」と言い誤魔化すが、決して「あの方」と言うことはしない。

「目上だぞ」

「僕としては、それほど……」

「尊敬は?」

「……微妙」

「わかる」

 アイザックは権力に媚びる人物ではないので、アークを苦手と見る。

 苦手な人物にペコペコする理由はなく、やればやるほど精神的に参ってしまう。

 といって目上の人物を全て批判しているわけではなく、真面目に仕事を行い結果を残している人物は尊敬していると付け加えた。

「シオンが上に立てばいい」

「だから、無理」

「無理じゃないだろう」

「……まあ」

 統治者の権力をフルに活用すれば、すぐに上に立つことができるが、シオンはそのようなことに権力を使いたくない。

 できれば日頃の努力が認められて――と考えているが、現在の上司が上司なので出世ができるかどうか怪しい。

 その点についてアイザックも同意するらしく、何度も頷く。

「僕としては、期待している」

「理由は?」

 これについて大声で話すことができないのだろう、アイザックは身を乗り出すと小声で囁く。

 唯一信頼できるのは、シオンの一族クレイド家。

 アンバード家の跡取りも乗り出してきたのだから、クレイド家も何らかのかたちで動いてもいいのではないか――と、提案してくる。

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