アメット
「俺は、今のままがいい」
「父親(おやじ)さん?」
「父さんは、そういう性格じゃない」
「一族によって、性格が違うな」
「他の二つは、自己主張が激しい」
「それは、あの人を見ているとわかる」
グレイは自己の性格を前面に出すことはせず、裏で仕事をするタイプの人間だ。
全てはドームの住人の平和と安定の為と――まさに、統治者の鏡といっていい。
シオンはもう少し自己主張してもいいのではないかと考えるが、グレイは今の立ち位置が丁度いいと話している。
「だけど……」
「うん?」
「今は、父親さんだろう」
「そう」
「何だろう。上が変わると、空気も変わる」
「父さんの性格が、影響しているのかもしれない」
このままの状況が長く続けばいいが、決まった年月が経過すれば別の統治者に代わってしまう。
アイザックが言うようにクレイド家が長く統治し続ければ、ドームに蔓延している独特の空気も一掃されるだろう。
その結果、ギスギスしている階級制度が緩まるかもしれない。
と、アイザックは語る。
「だね」
「それと――」
しかし、最後まで言葉を発せられることはない。
ウエイターが、アイスコーヒーを運んできたからだ。
また、多くの客が行き来している店内で、このような話は憚られる。
いつ何処で誰が聞き耳を立てているかわからないので、統治者についての話はこれで終了することにした。
その後、運ばれてきたオムライスを無言の中で胃袋に納めると、やっと空腹が解消されたことに満足そうな表情を浮かべる。
そして食後アイスコーヒーを飲みつつ、まったりとした時間を過ごした。
会計を終えた二人が次に向かったのは、家電量販店。
シオンはクローリア専用を選び、アイザックは自分に合ったパソコンを探す。
だが、なかなかいいパソコンが見付からないらしく、二人とも渋い表情を浮かべている。
特にアイザックは性能がいいパソコンが欲しいので、値段との戦いだ。